
心には、形がないと思っていた。
愛にも、目に見える輪郭はないと思っていた。
幼なじみと笑い合った日々。
学生時代に夢中になった
バンド活動。
不器用な恋。
結婚。
そして、今の仕事。
どれも確かにそこにあったのに、
手に取ることはできない。
だから、
形なんてないのだと
思っていた。
けれど時々、
説明のつかない瞬間がある。
なぜか話が途切れない人。
妙に、ぴたりと重なる時間。
合わせたわけでもないのに、
最初からそこに
合う形があったような感覚。
言葉にすると、
少し違ってしまうけれど。

娘が高校生くらいの頃。
買い物に付き合わされて、
二人で歩いた帰り道。
家では「パパ嫌い」なんて
照れ隠しのように言っていたくせに、
その日はどこか素直だった。
帰り道。
不意に、娘が手をつないできた。
一瞬、戸惑った。
でも、胸の奥が
静かにほどけていった。
あの小さな手の温もりは、
今も消えない。
あの日にも、
確かに“かたち”があったのだと思う。
見えないけれど、
ぴたりと重なった、
親子のかたち。
娘は今、結婚し、
誰かと手を取り合って生きている。
あの日のように。
娘には娘の、
運命の出会いがあり、
娘なりの
しあわせのかたちがあるのだろう。
心も、愛も。
最初から形がなかったのではなく、
見えなかっただけなのかもしれない。
そしてそれは、
出会いのたびに姿を変えながら、
静かに続いていく。



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